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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)495号 判決

上告人 後藤栄

被上告人 安部シズ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人淵辰吉の上告理由第一点について。

不動産登記法二条二号所定のいわゆる請求権保全の仮登記の効力に関する原判決の説示には、やや不正確な表現もあるが、その趣旨は、右法条所定の請求権保全の仮登記にもとづいて本登記がなされた場合においても、その仮登記の順位保全の効力により、その仮登記後本登記までの間になされた当該不動産についての処分行為は、本登記された権利の内容に抵触する限度において、その効力を失うと解するのが相当であると判示したものというべきであつて、原判決の右解釈には誤りはない。論旨は、独自の見解を主張するにすぎず、採用することができない。

同第二点について。

上告人は昭和三〇年八月二五日訴外池永勝馬から本件農地を買受け、昭和三七年八月二九日大分県知事からその所有権移転の許可を受け、さらに昭和四〇年四月一四日その所有権移転登記を経由しているの対し、被上告人は昭和三七年四月五日右池永から右農地を買受け、同月九日その所有権移転請求権保全の仮登記を経由したのみで、いまだ知事の所有権移転の許可もなく、所有権移転登記も経由していないから、原審口答弁論終結時の段階においては、上告人が右農地の所有権の取得をもつて被上告人に対抗することができるものとしつつ、しかし、被上告人は、右のごとく、上告人の右登記の以前に、右仮登記を経由しており、かつ将来知事から右農地の所有権移転の許可を受け得る可能性があるから、もし被上告人が知事の右許可を受け、右仮登記にもとづく本登記を経由した場合においては、上告人の右所有権の取得は否認されるに至るものであり、したがつて右仮登記は無効とはいえない、とした原判決の判断は、正当として是認することができ、同判決には所論のごとき理由齟齬等の違法はない。論旨は、要するに、農地の所有権の二重譲渡の場合には、所有権移転登記の先後によつてではなく、知事の所有権移転の許可の先後により、その所有権取得の優劣が決定されるとする全く独自の見解によるものであり、採用することができない。

同第三点について。

農地法三条または五条にもとづく知事の許可は、農地法の立法目的に照らして、当該農地の所有権の移転等につき、その権利の取得者が農地法上の適格性を有するか否かの点のみを判断して決定すべきであり、それ以上に、その所有権の移転等の私法上の効力やそれによる犯罪の成否等の点についてまで判断してなすべきではない、と解するのが相当である。論旨は、右許可の目的ないし性格を正解しないで原判決を非難するものであり、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

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